Pneumothorax(気胸)の歴史
気胸の診断は胸部X-Pで一目瞭然である。
聴診や打診法による診断も可能だが、 「気胸」疾患名の使用はX線発見の1895年以降で あろうと漠然と考えていた。
はたして、「気胸」という疾患名はいつから 使用されているのか調べてみた。
岡山県早島町 木村医院 木村 丹
2006年4月
X線の発見は1895年12月
X線の報告 1896年1月4日 その数か月後、イタリア、イギリスなどの陸軍軍医により、兵士の体内にある弾丸の位置決めや骨折の有無など医療への応用がなされた。
(レントゲンの生涯、W.Robert Nitke著、山崎岐男訳、1989年)
わが国の古い論文には下記があった。
1921年(大正10) 実験医報 79:609-615
臨床講義 気胸 入澤達吉(東京帝国大学医学部)
気胸の大部分、即ち90%は肺結核のある人におこる。
なんら誘引なしに、あるいは強い咳嗽、力の入る労作の後、
いきんだ際に発症し、突然に刺すような疼痛と呼吸困難を訴える。
気胸はさほど稀な疾患ではない。
また診断もさほど困難ではない。
診断)
1.聴打診
2.胸部レントゲン写真
3.試験穿刺をしてみて針が肺に入れば針は自由に動くかないけれども、気胸の中では針は自由に動く。
治療)
1.まず安静
2.呼吸困難に対してはモルヒネ投与
3.太いトロアカルを刺して、ゴム管につなぎ先を水の中に入れ、 空気を出す。
1860年 British Medical Journal :665-666 Rannking W.H.(英国)
19歳 男性(tall thinn young man) 教会で座っている時に、突然呼吸困難および左胸痛が出現
視診)肋間が拡大し、左の胸郭が丸くなったおり、呼吸運動が見られない。
打診)tympanitic
聴診)左呼吸音は消失しており、心臓は右方へ偏移。
診断)pneumothorax
治療)特にせず治癒。
一般に、気胸は結核性の空洞が破裂して、胸腔と交通するために起こるが、 本患者では結核を示唆する所見はなく、恐らく「emphysematous air-cellのruptureだろうと推測している。
以上、比較的簡単にX線発見以前に“Pneumothorax”という用語が 存在することがわかった。
(聴診器によってすでに気胸は診断されていた。すなわち聴診器の考案以前から“気胸”の疾患名は存在した。)
1819年 Laennec T.H.(フランス、1781-1826)
間接聴診法、またはこの新しい探求法に主として基づいた 肺と心臓の疾患の診断に関する研究
聴診器を発明し(1816年)、肺炎、肺気腫、肺癌、胸膜炎、 気胸、肺水腫など呼吸器疾患の病態について多くの 新知見を述べた。(1819年)。
(近代医学の史的基盤 上・下、川喜多愛郎著、1977年 岩波書店)
THE ORIGIN OF MEDICAL TERMS
by Henry Alan Skinner(1949年) The Williams & Wilkins Company
PNEUMOTHORAX P.283
A modern term meaning air in the pleural cavity.
It originated with Jean Iterd(1775-1838)an ear specialist
of Paris who wrote on the subject in 1803.
The condition was also described by Laennec.
In 1842, Carson suggested artificial pneumothorax for the
treatment of pulmonary tuberculosis. This idea was reviewed
by Cario Forlanini(1847-1918) an Italian physician, in 1882.
He put it into practice for the first time in 1892.
The Origin of Medical Terms by Henly Alan Skinner(1949)
気胸 P.283
1803年 Jean Iterd(フランス、1775-1838)
最初にpneumothorax(気胸)という疾患名を発表した。
1819年 Laennec T.H.(フランス)
聴診器を発明し、気胸の診断を容易にした。
1842年 James Carson(イギリス)
肺結核に治療に人工気胸が有効であろうと推測した。
1892年 Carlo Frlanini(イタリア)
最初に肺結核に対して人工気胸を行った。
ついにこのひとが見つかった。
(調べ始めてからここまで2か月を要した。)
Jean Marc Gaspard Itard
(1775-1838)
He is an ear specialist of
Paris,who reported
in1803 the findings of
pneumothorax in 5
cases
(autopsy3,surgical
operation 2), and
introduced the term of
“pneumothorax”.
Alexander Monro
(1697ー1767)
気胸に対して 胸腔穿刺という治療法 を理論的に提唱した。 (1761年)
このようなひとも見つかった。
Johns Hopkins Hospital Reports(1903年)
Pneumothorax:A Historical, Clinical abd Epidemical Study
自然気胸(1982年 克誠堂出版)1.自然気胸の歴史
BC400年頃 Hippocrates(ギリシア)
“The sprash on succusion”「ヒポクラテス震盪音」
→気胸および膿胸について説明
1628年 Pare 肋骨骨折の合併症として、空気が注入され 圧がかかったように肉(胸郭?)が腫れ上がる ことがある。→外傷性気胸
1648年 Jean Riolan(1577-1657)
穿刺を数回試みて、成功すれば胸腔内の空気が 逃げる。→胸腔穿刺の試み
1670年 Theophile Bonet (1620-1689) emphysema of the lung(気胸?)
の患者の対してはRiolan の提唱したparecenthesisを行うべき。
1747年 Combulsier
気胸を生理学的に考察し、胸腔内に侵入した空気のために
肺が圧迫される結果、肺機能が低下することを述べた。
1761年 Alexander Monro
気胸に対して初めて「thoracentesis」という治療法を 理論的に提唱した。
1767年 Hewson
胸腔内の空気に対しては、parecentesis thoracisをして空気を
逃がしてやることが必要と、 胸腔穿刺排気について詳細に報告。
“emphysema following wound of the chest”というtermが見られる。
1803年 Jean Itard(フランス)
5例の気胸症例の観察し”pneumothorax”というtermを初めて用いた。
1819年 Laennec(フランス)
聴診器を用いて気胸の臨床所見について最初の報告。
1880年 Aios Biach(オーストラリア)
919例の気胸を集計し、78%に肺結核を認めた。
14例の原因不明例を“Akuter Idiopathischer Pneumothorax”と 記載した。
1889年 Devilles
気胸を病理組織学的に検討し、自然気胸の原因として 胸膜下のう胞の存在を報告した。
1880年 気胸のほとんどが肺結核に起因していることから、気胸と診断 からされると
肺結核が明確でなくても1年間の安静療法が行われた。
1930年頃
1932年 Kjaerigaard(デンマーク)
自然気胸は結核性は少なく、非結核性の“のう胞”の破裂で であることを強調した。
1951年 稲垣、久野、雨宮
気胸の原因として結核が多いが、他の要因によるものも多く、 稀な疾患ではないと報告。
1960年 健康者に突然発症する自然気胸が増加し、その病態、生理、病因、 から 治療法に関する報告が多く見られた。
1970年頃
個人的に追加
(1973年 武野胸腔造影を行い、その後局所麻酔下に胸腔鏡を使用して 肺のう胞電気凝固を行った。)
1.紀元前4世紀にHippocratesが“ヒポクラテス振盪音”という言葉を用いて いる。これは気胸と胸水の病態を示すものである。
2.17世紀には気胸は“emphysema”という用語で説明されており、 いくつかの論文が散見できる。
3.18世紀にも“emphysema”という用語が使われるが、17世紀に比べ 内容 は詳細になり、1770年には胸腔穿刺排気という治療法がほぼ確立された。
4.1803年、Jean Itard(フランス)が“pneumothorax”という用語を初めて 用いた。1819年Laennecにより聴診器が発明され、病態の解明はさらに 進んだ。
5.1900年前後、自然気胸の原因として肺結核が圧倒的に多かった。
6.1973年、胸腔鏡治療(局所麻酔下の電気凝固)が開発された。
(7.1994年、胸腔鏡治療は全身麻酔下に肺のう胞を含む肺部分切除へと 展開された。)・・・・
1.Johns Hopkins Hospital Reports 1903年
Pneumothorax:A Historical, Clinical abd Epidemical Study
2.自然気胸(1982年 克誠堂出版)1.自然気胸の歴史
3.レントゲンの生涯、W.Robert Nitke著、山崎岐男訳、1989年
4.SPONTANEOU SPNEUMOTHORAX D.A. KILLEN, W.G.GOBBEL
Published in Great Britain by J.&A. Churchill Ltd., London
1968年
5.入澤達吉:実験医報 79:609-615 1921年
6.Rannking W.H.:British Medical Journal :665-666 1860年
7.川喜多愛郎 近代医学の史的基盤 上・下 岩波書店1977年
8.Henry Alan Skinner:THE ORIGIN OF MEDICAL TERMS
The Williams & Wilkins Company 1949年